秩父宮ラグビー場は「西の花園・東の秩父宮」と称されるラグビーの聖地です。芝生は一般家庭の庭だけでなく、公園や校庭のレクリエーション広場、法面や屋上の緑化、スポーツ競技のグラウンドなど、さまざまな場所で活用されています。しかし試合数の多い秩父宮ラグビー場では、芝の荒れ具合がたびたび話題になってきました。この記事では、秩父宮ラグビー場がどのような芝生管理を行い、なぜ度々張り替えが必要になったのか、その経緯を詳しく調べてまとめました。東京都内の芝生がある公園(ピクニック・子連れ)はこちらをご覧ください。
秩父宮ラグビー場の芝生
秩父宮ラグビー場は、東京の明治神宮外苑にあるラグビー専門競技場です。ラグビー専用競技場として1947年、女子学習院跡地に「東京ラグビー場」として完成しました。1953年には日本ラグビーフットボール協会の名誉総裁だった秩父宮殿下にちなみ「秩父宮ラグビー場」と改名されています。その後1964年に国立競技場(現・日本スポーツ振興センター)へ移管され、同年の東京オリンピックではサッカー競技場として利用された経歴も持っています。
現在の秩父宮ラグビー場は、国際試合、日本選手権、トップリーグ、大学選手権などの主要な試合が行われる会場として利用され、「西の花園・東の秩父宮」と称されるラグビーの聖地です。2020年の東京オリンピックに向けて国立競技場は建て替え工事が進められましたが、秩父宮ラグビー場は「ラグビーワールドカップ2019」の終了後に取り壊され、五輪開催中は駐車場として利用されます。その後、隣接する神宮球場と入れ替わる形で2025年に新しい競技場として建て替えられる予定です。
秩父宮ラグビー場の芝生がひどいと問題となった例
ラグビーはスパイクで踏ん張る競技特性上、芝生へのストレスが大きいスポーツです。加えて秩父宮ラグビー場は、芝生の生長が止まる秋・冬にも試合開催数が多いため、芝生の状態が度々問題視されてきました。例年、年明けには砂地が露出してしまうことから「秩父宮ビーチ」と揶揄されるほどです。
秩父宮の芝生は散らかってたな。毎年同じ状況だが本当に使用過多だけが原因なのか。選手が必死になって試合の準備してきたことを最高の環境で迎え入れてあげることこそが、ラグビー発展につながるのではないかな。あのグラウンドでプレーしたいと誰もが思う環境を用意できないのか。聖地の整地を願う。
— Ryota Asano (@asanoryota) 2015年12月6日
荒れた芝の上でプレーする選手側からは、怪我を心配する声も上がっています。
――「砂のよう」と揶揄されていた秩父宮の芝生、張り替わっていました。
「でも、きょうも躓きました。そこのところは協会の方もしっかりして欲しいですね。段差もありましたし。怪我のリスクもあります。準備期間もスムーズに行っていなかったので、選手としては声を大にして言うべきかと」
サンウルブズ初戦前ですが…。山田章仁、運営側に苦言!「言わなきゃなぁ」【ラグビー旬な一問一答】(向風見也) – 個人 – Yahoo!ニュース 2016/2/26
芝生は使用頻度が高いと回復が追いつかず傷んでいきます。近年は年間の試合数が増加していることが、この問題の背景にあるようです。
ここ十数年、シーズンが深まるにつれ、芝の状態が悪化してきた。一番の原因は過密日程。秩父宮を運営する日本スポーツ振興センター(JSC)などによると、かつて70試合程度だった年間の試合数は、2016年に約100試合に上った。芝の養生期間を設けても次から次に試合が行われ、回復が追いつかない。JSCの担当者は「理想は年間60~70試合程度。試合数を減らすよう日本ラグビー協会に要請している」と明かす。
秩父宮の芝ピンチ…ラグビーの聖地、年間100試合に : スポーツ : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 2017/2/01
秩父宮ラグビー場の芝生張替えの歴史
関心の高さゆえか、秩父宮ラグビー場の芝については状況報告が逐一発表されており、経緯をまとめると次のようになります。報道されているものだけをまとめているため、記録に抜けがある可能性もあります。
- 1993年:従来の土床構造から砂床構造に改修。水はけがよくなり水たまりが解消した。
- 2002年:芝生全面張り替え
- 2008年:芝生全面張り替え
- 2010年:芝生を一部張り替え(中央部分)
- 2017年1月、11月・12月:芝生を一部張り替え
これらを一覧で整理すると、以下のようになります。
| 年 | 実施内容 | 主な背景・特徴 |
|---|---|---|
| 1993年 | 土床構造から砂床構造へ改修 | 水はけ改善が目的。しかし後に水たまりが再発 |
| 2002年 | 芝生全面張り替え | 老朽化・オーバーシーディングによる夏芝の栄養不足が原因 |
| 2008年 | 芝生全面張り替え | ティフトン419のロール芝を使用 |
| 2010年 | 中央部分の一部張り替え | ジュニアワールドカップの影響でトランジションが遅れ夏芝が衰弱 |
| 2017年1月 | 部分張り替え | 養生期間わずか1ヶ月と短期間 |
| 2017年11月・12月 | 全面張り替え(2回) | 1回目の養生不足を受け12月に再度張り替え、養生期間ゼロ |
【2000年】秩父宮ラグビー場の芝生張替え
芝生の話 | 国立競技場の「グラウンドキーパー汗と涙の奮闘記」は全10回のシリーズですが、第8回と第9回で秩父宮ラグビー場の2002年の芝生張り替えが取り上げられています。
まず前段として、1993年に行われた砂床構造への改修について触れておきます。芝生の土壌は「床土」「目土」と呼ばれますが、最近では水はけの良い砂を主体にした構造が主流になっています。「目土と言いつつ目砂」とは「床土と言いつつ砂を主体に土壌改良材や肥料を加えたもの」を指し、こうした砂主体の床土が一般化してきました。芝生は水はけの良い土壌を好むため、以前よく使われていた黒土よりも砂の方が好まれる傾向にあります。
ところが砂床構造にしたにもかかわらず、水たまりが再発し、芝生も元気を失っていきました。その原因を調べるため「芝草成分分析調査」を実施したところ、同じ施肥管理を行っている国立競技場と秩父宮ラグビー場を比較した結果、秩父宮ラグビー場の芝は夏芝の貯蔵栄養分が極端に少ないことが判明しました。
この栄養不足の原因は、通年の緑を維持するために行われていたオーバーシーディングでした。オーバーシーディングとは、冬でも常緑!芝生にオーバーシードする方法で触れたように、冬に地上部が枯れてしまう夏芝を補うため、秋冬は冬芝をメインに育てる手法です。
オーバーシーディングでは毎年春に、冬芝から夏芝へ切り替える「トランジション」という作業が発生します。夏芝はこの育成期にまず冬芝との競争に打ち勝たなければならず、その分だけ年々勢いが衰えてしまうリスクを抱えているのです。
さらに「土壌分析調査」からは、芝生の根や茎、葉が腐食してできた層が増加し、水はけや通気性が低下していることも明らかになりました。芝生の手入れでは、穴を空けて砂を入れる「エアレーション」という作業でこうした劣化を防ぎますが、9年もの間使い続けると通常の手入れだけではリカバーできない状態まで進んでしまったのです。
こうした芝生の老朽化、土壌の水はけと通気性の低下という複数の要因が重なった結果、芝生を新規に張り替え、床土を排水性の良い砂に入れ替える全面改修が実施されることになりました。
第9回 新生秩父宮ラグビー場ができるまで!Part.2 | 国立競技場によると、芝生張替えの手順は、既存芝のはぎ取り、既存床土の掘削、床土の耕転、客土の搬入、転圧・整地、芝生の切り出し、芝生の張り付けという流れで進められ、2002年5月7日から45日間で工事が完了しています。その後3ヶ月の養生期間を経て、9月にラグビーの開幕戦を迎えました。
【2008年】秩父宮ラグビー場全面芝生張替え
長谷川体育施設の施行事例として掲載されているこの張替えでは、秩父宮ラグビー場の天然芝ピッチが全面的に改修されています。既存芝と床土をすべて剥ぎ取り、ティフトン419のロール芝を新たに張り付けました。床土には木更津産の黒目砂と相模原産の黒土を混合したものが使用されています。
秩父宮ラグビー場の天然芝全面張替。美しいピッチが再生! | 施工事例 | 長谷川体育施設株式会社
【2010年】秩父宮ラグビー場の中央部の芝生を一部張替え
2010年6月には、秩父宮ラグビー場で芝張替え工事が実施されました。前年2009年6月に行われた「ジュニアワールドカップラグビー」の影響で、冬芝から夏芝へのトランジションを遅らせる必要があり、その結果として夏芝ティフトンの元気が失われたことが原因とされています。
芝生の販売形態によれば、芝生の張り方には種子、切り芝、ロール芝といった選択肢がありますが、このときはビッグロール工法が採用されました。ビッグロール工法は切れ目が少ないため、養生期間を短縮できるというメリットがあります。
【2017年1月】秩父宮ラグビー場部分芝生張替え
秩父宮ラグビー場の公式サイトによると、ピッチは1万平方メートル(夏芝はティフトン、冬芝はペレニアルライグラスによる二毛作で通年緑化を実施)とされているため、6000平米程度が今回の一部張り替えの対象と見られます。1月末に張り替えて2月末には使用開始という日程で、かなり養生期間が短いことがわかります。芝の張替えには1平米あたり1万円ほどのコストがかかるとされ、味の素スタジアムや国立競技場のような広大なピッチを全面張り替える場合には、数千万円から1億円規模の費用が発生すると言われています。
観葉植物レンタルのグリーンテック|秩父宮ラグビー場芝張り替え作業!
【2017年11月・12月】秩父宮ラグビー場全面芝生張替え
2017年は芝生の状態が特に問題化した年で、短期間のうちに芝が頻繁に張り替えられました。11月に全面張替えを行い3週間の養生期間を設けたものの状態が良くならず、そのためラグビー協会からの要望を受けて12月に再度全面張り替えが実施されたという経緯です。12月11日から15日にかけて張り替えを行い、16日には試合が組まれていたため、2回目の張替えは実質的に養生期間ゼロという状況でした。ビッグロールが地面に置かれているだけの状態でピッチに供されたため、芝がめくれ上がってしまうのは無理のない結果だったといえます。
「秩父宮の芝が芝じゃない問題」について。【ラグビー旬な一問一答】(向風見也) – 個人 – Yahoo!ニュース 2017/12/21
秩父宮ラグビー場の芝生管理から見える課題
秩父宮ラグビー場の芝生張替えの歴史を振り返ると、単純な管理不足というよりも、試合日程の過密化と養生期間の確保という構造的な問題が繰り返し表面化していることがわかります。芝生は張り替えた直後から使用できるわけではなく、根が定着し夏芝が十分に力をつけるまでの養生期間が不可欠です。しかし試合スケジュールが優先されるあまり、養生期間が数週間、時にはほぼゼロという状態で使用が始まるケースが目立ちます。
また、通年で緑を保つためのオーバーシーディングが、夏芝の栄養蓄積を妨げ、長期的な芝の体力低下につながっていた点も見逃せません。見た目の美しさと芝の健康状態は必ずしも一致せず、どちらを優先するかというバランスの難しさが、秩父宮ラグビー場の芝生管理には常に付きまとっているといえるでしょう。2025年の建て替えに向けて、こうした課題がどのように解消されていくのか、今後の動向にも注目したいところです。









