鹿児島の路面電車で線路を芝生で緑化している事例について。こうした路面電車の軌道緑化は、ヒートアイランド現象の緩和、景観向上などを目的に行なわれます。Twitterの写真だけ見ると全線緑化しているように勘違いされがちですが、実際は特定駅だけなど限定的な導入になっている会社も多いようです。
なお、芝生には景観ニーズのほかに低コストで維持したい公園、擦り切れ耐性や通年緑化が求められるスポーツ競技のグラウンド、法面保護など色々な目的があり、路面電車は公共空間の緑化事例の一つになります。
ヨーロッパにおける路面電車の軌道緑化
この記事を書いた後、ドイツのドレスデンに旅行した時に撮って来た写真から。ちょうど黄葉の時期で、黄色い落ち葉で見えづらくなっていますが、路面電車の線路が西洋芝で緑化されています。
駅のホームから。こちらの方が芝があることがわかりやすいですね。
なお、全線緑化されているわけではなく、交通量が多いところは普通にアスファルトや石畳が使われています。
こうした緑化はヒートアイランド現象の緩和や景観向上のため行なわれますが、向こうの西洋芝が通年緑化可能なのに対し、日本芝は冬枯れするので見た目の課題があります。では西洋芝を使えばいいかというと、西洋芝は一般に暑さに弱く、また夏は毎日(毎日!)水撒きが必要で、低コストで景観を維持する用途には向きません。
なお、日本でも西洋芝は景観重視の東京駅前広場やディズニーランド、通年緑化が求められるサッカー場や競馬場、ゴルフ場などで使われています。
鹿児島の路面電車の芝生で「軌道敷緑化整備事業」
「金沢おもしろ発掘」さんが鹿児島を訪れ路面電車の線路(軌道)に芝生が植えられていることを記事にしています。 → 軌道敷緑化整備事業
興味深かったので路面電車の緑化について調べてみました。路面電車では特に都市部においてヒートアイランド現象緩和のため緑化の試みが行われています。2010年の調査では国内19事業者のうち軌道緑化を実施しているのは3社(当時。現在はもっと増えています)で期待している効果はヒートアイランド抑制が主でその他に景観向上、車両侵入防止などが挙げられています。高麗芝たまは改良高麗芝を使用し水やり、芝刈り、除草、追肥を実施しています。鹿児島が成功事例となり他も実施、という流れのようです。
参考)国内軌道緑化の現況調査「国内軌道緑化の現況調査」
鹿児島を訪問した@ken_c_loさんに写真を提供していただきました!
鹿児島市電の軌道緑化事例
「鹿児島市電」は鹿児島市交通局が運営する軌道電車です。九州新幹線開通に伴う駅前整備事業の一環で市の公園緑化課が主体となって軌道緑化を実施し全線8900mを芝生化する計画です。
鹿児島市電軌道敷緑化整備事業|鹿児島市
芝生化の効果としてはヒートアイランド現象の緩和、景観向上、電車通過時の騒音低減などがあり維持管理コストもアスファルトより低いそうです。特徴としては「シラス緑化基盤」を使用していることでこれは鹿児島の「シラス台地」から算出される「シラス」の優れた保水性・透水性を活かした商品です。
世界唯一?鹿児島市電が運用する“芝刈り電車”
鹿児島市電は散水車の機能を持つ牽引車が芝刈り機を搭載したトレーラーを牽引する“芝刈り電車”を運用しています。開発・製作に4000万円かかったそうですが従来2800万円かかっていた維持費用より20%安くできるとしています。
普通に考えても線路のある軌道上は普通の芝刈り機が使いづらい環境であることは想像できます。鹿児島市は全線機動力化していますから総面積は国立競技場数個分に達し省力化は効果がありそうです。
(17) 鹿児島市交通局 芝刈り電車 散水電車 – YouTube
大阪・天王寺の路面電車軌道芝生化事例
大阪と堺を結ぶ路面電車の阪堺電気軌道。略称=阪堺電車。2016年に行われた阪堺電気軌道上町線移設工事で天王寺駅前停留所付近に芝生緑化部分が誕生しました。あべのハルカスに近い天王寺駅前発の上町線の線路の一部が移設し、関西初の芝生軌道が登場しています。今まで幹線道路のあべの筋の中央に阪堺電車が走っていて片側一車線だった箇所の拡幅で渋滞解消が期待されます。
阪堺電車、天王寺駅前~阿倍野間を12月に切り替え 関西初の芝生軌道に https://t.co/EXFXP88zE7 pic.twitter.com/jbezNq8xTL
— あべの経済新聞 (@abenokeizai) September 8, 2016
なおハルカスに隣接する天王寺公園のエントランスエリアは7000平米に及ぶ芝生広場となっていて2015年10月にリニューアルオープンしています。景観の連続性がありますね。
天王寺公園の芝生=てんしば
あの寂しかった場所が都心の公園に相応しい賑わいを早速見せています。私の税金はこういうことに使って欲しいのです! pic.twitter.com/yTnLEFjCT5— けんたろう (@ken_ta_rou) October 4, 2015
長崎の路面電車の軌道芝生緑化事例
長崎の路面電車は長崎電気軌道株式会社が運営しています。2006年の「路面電車サミット」の際に全額自費で40m=180m2を緑化しています。専用軌道は8kmありますが観光地を中心に今後も緑化を進める方針ということでトライアルのようです。
長崎の路面電車は今のところアスファルト、砕石、石畳の所が多いようです。
熊本市電の軌道芝生緑化事例
震災で熊本城を始め大きな被害を受けてしまった熊本市ですが2014年から路面電車の緑化が始まっています。「市電軌道敷緑化募金」という制度で事業者や団体、市民から寄付を受けて維持経費を捻出しています。
富山「ポートラム」の軌道芝生緑化事例
富山の「ポートラム」は富山ライトレール株式会社が運営する路面電車。富山駅北停留場及び市道富山駅北線(ブールバール)区間で軌道内に芝生を植えています。2015年に採用されたgreenbizは、染色産業の廃棄物(余剰バイオマスケイク)を有効利用し開発された超微多孔性の発泡セラミックス基盤です。緑化は国庫補助+市からの補助で維持管理費は富山市が負担しています。
~世界初!エコ建材greenbizを用いた軌道緑化~富山ライトレール軌道緑化試験施工|小松精練株式会社のプレスリリース
富山ライトレール 軌道緑化を施工しました! | 建設総合サービス業のトーケン
豊橋市電の一部軌道芝生緑化事例
路面電車に芝生が写っている写真があったので調べた所、2017年4月のニュースで軌道の一部140mを芝生で緑化していました。「ビクトール芝」は聞き慣れませんが“ビクトール(長期緑色型ダメージ耐性タイプ)ハイブリットコウライ”ということで改良高麗芝のこと。高麗芝など日本芝は夏芝に属し秋冬は紅葉し地上部が枯れますが赤紫色の元になるアントシアニン色素を遺伝子レベルで消失させた品種です。実証実験では路面の温度がアスファルトと比べ20度違う結果も出ているとのこと。
ビクトール(長期緑色型ダメージ耐性タイプ)ハイブリットコウライ | ニチノー緑化
豊橋・市電の軌道緑化 駅前大通の約140㍍で完了 | 東愛知新聞
都電大塚駅の軌道芝生緑化事例
都電荒川線は東京都交通局が運営する路面電車。都電荒川線の軌道緑化に向けた検証実験を開始すると2016年に発表しています。協力企業は株式会社トーケンということで富山「ポートラム」の緑化実績が評価されたのだと思います。
欧州の路面電車事例
欧州鉄道フォトライターの橋爪 智之さんが東洋経済オンラインに書いた路面電車建設「反対意見」は本当に正しいか。冒頭でオランダ・ロッテリアムで専用の芝生軌道を走る路面電車の写真及び鹿児島で芝生緑化事例があることに触れています。