Jリーグが天然芝限定の規定を改め、ハイブリッド芝を解禁しました。その第一号となったのがノエビアスタジアム神戸です。天然芝をベースに人工繊維で補強するハイブリッド芝は、なぜ世界の強豪クラブが次々と導入しているのでしょうか。秩父宮ラグビー場の芝の荒れが話題になったことや、東京オリンピックを控えた競技場整備の動きも合わせて、その構造とメリット、国内外の採用実績を整理しました。
ハイブリッド芝って人工芝とどう違うんですか?天然芝より丈夫なんでしょうか。




ハイブリッド芝は天然芝が95%以上を占める芝で、人工芝とは別物です。人工繊維を織り込むことで根がしっかり張り、踏まれても崩れにくくなる仕組みになっています。
天然芝一筋だったJリーグ、ハイブリッド芝解禁への転換
Jリーグは芝生のマスコットキャラクター「Mr.ピッチ」を採用するなど、緑のピッチを象徴するスポーツとして歩んできました。100年構想では「あなたの町に、緑の芝生におおわれた広場やスポーツ施設をつくること」を掲げ、校庭やグラウンドが芝生化された学校は全国で2000弱に達しています。
Jリーグの公式試合は1993年の開幕以来、全て常緑の天然芝のピッチで行われています。明るい太陽の光に輝き、あるいは照明に映える緑のカーペットという舞台装置は、土のグラウンドで行われることが普通だった日本のスポーツに、新たな次元を開きました。天然芝の推進:About Jリーグ:Jリーグ.jp
この方針が2017年、大きな転換点を迎えます。Jリーグのスタジアム基準に、天然芝以外の選択肢が正式に加わったのです。
クラブライセンス制度とスタジアム基準の変更点
Jリーグにはクラブライセンス制度があり、財務基準とあわせてスタジアムなど施設基準も定められています。J2で優勝してもJ1基準を満たすスタジアムがなければ昇格できない仕組みで、リーグ全体の安定運営を担保する役割を持っています。この施設規定では、従来「天然芝ピッチのみ」が認められていました。それが2017年から「天然芝またはJリーグが認めたハイブリッド芝」へと変更されています。Jリーグが認めるハイブリッド芝は、具体的には「ピッチ全体が天然芝と5%以下の人工芝とを組み合わせたもの」と規定されました。
なぜJリーグはハイブリッド芝を認めたのか
ここで気になるのは、これまで天然芝を守り抜いてきたJリーグが、なぜ方針を転換したのかという点です。答えの一端は、同じ天然芝文化を持つラグビーの現場にあります。
秩父宮ラグビー場が突きつけた天然芝の限界
ラグビーの国際統括団体は第22条 人工芝の使用に関する基準、天然芝以外の芝が認められるようになってきた背景を次のように説明しています。
ラグビーの試合は伝統的に天然芝の競技場で行われてきた。これは伝統という理由だけではない。理想的な状態の天然芝の競技場は、ラグビーの試合に最適だからである。天然芝によるフィールドは、最高レベルの国際試合に適した足場の確保、衝撃吸収性、ボールの弾み、トラクション(スパイクの引っかかり)、変形度や安定性のほか、景観的な美しさを実現することができる。その反面、このように理想的な天然芝にはマイナス面もあることは否めない。天然芝の性能特性を維持するためには、徹底的な維持管理体制が必要となるのである。
理想的な状態の天然芝は、たしかに人工芝を上回る性能を持ちます。ただ使用頻度が高すぎたり、気候や競技場の設計、グラウンドキーパーの体制など様々な要因によって芝が傷み、競技に適さない状態のまま使い続けなければならないケースがあります。日本国内でも、ラグビーの聖地とされる秩父宮ラグビー場の天然芝が、試合頻度の高さや高層ビルの陰による日照不足などから砂地化し、毎年問題になっています。



最高の状態の天然芝が人工芝やハイブリッド芝に勝ることは変わりません。しかし傷んだ天然芝は、そのどちらよりも劣ってしまいます。この現実が、欧州を中心にハイブリッド芝の採用を後押ししてきました。
FIFAでの認可という国際的な流れを受けて、Jリーグでもハイブリッド芝が解禁されたと理解できます。各クラブでは練習場での試験採用が先行していましたが、公式戦の会場としてはノエビアスタジアム神戸が最初の事例となりましたノエビアスタジアム神戸 ハイブリッド芝について ~ 国内スタジアム初のピッチ内敷設へ ~:Jリーグ.jp。
人工芝・ハイブリッド芝の導入実績
人工芝やハイブリッド芝は、かつて品質面で天然芝に及ばないとされていました。しかし現在では東京ドームなどのドーム球場での野球、NFLのアメフト、フィールドホッケー、サッカー、ラグビーといったメジャースポーツで広く採用されています。



一方でサッカーの世界では、人工芝の導入に慎重な声もあります。ワールドカップカナダ大会の女子決勝が人工芝で行われた際、選手が男女差別だと抗議した経緯があり、フルの人工芝への切り替えはあまり進んでいません。その代わりに広がったのが、天然芝を主体に人工繊維で補強するハイブリッド芝です。欧州各国を代表するスタジアムで、続々と採用が進んでいます。
欧州の強豪スタジアムで採用が進むハイブリッド芝
ハイブリッド芝を採用しているスタジアムを見ると、名門クラブの本拠地がずらりと並びます。欧州チャンピオンズリーグやワールドカップの舞台となる競技場での実例を整理してみましょう。
| スタジアム名 | 本拠地クラブ | リーグ |
|---|---|---|
| アリアンツ・アレーナ | バイエルン・ミュンヘン | ドイツ ブンデスリーガ |
| エミレーツ・スタジアム | アーセナル | イングランド プレミアリーグ |
| アンフィールド | リバプール | イングランド プレミアリーグ |
| オールド・トラッフォード | マンチェスター・ユナイテッド | イングランド プレミアリーグ |
| スタンフォード・ブリッジ | チェルシー | イングランド プレミアリーグ |
| サン・シーロ | インテル・ACミラン | イタリア セリエA |
これらはいずれも欧州チャンピオンズリーグ、UEFA欧州選手権、FIFAワールドカップの舞台として使われてきた競技場です。トップレベルの試合を重ねてきた実績が、ハイブリッド芝の耐久性を裏付ける材料になっていますFCB、ハイブリッド芝を導入 – FC Bayern Munich。
ハイブリッド芝の構造とメリットを整理する
ハイブリッド芝は、天然芝を3〜5%の人工繊維で補強したものです。95%が天然芝という構成なので、「ハイブリッド」という言葉から連想されるイメージとは異なり、あくまで天然芝が主体になっています。ワールドカップやチャンピオンズリーグ決勝でも使われた「デッソ・グラスマスター(Desso GrassMaster)」のデータによると、次のようなメリットが確認されています。
- 10年間のコストで比較すると天然芝ピッチより70〜80%低く抑えられる(設計寿命15年、実績21年)
- 芝生ピッチの強度が上がり、踏ん張った際に滑りづらく膝への負荷が軽減される
- サッカーやラグビーに加えコンサートなど多目的での利用がしやすくなる
ACミランのホームスタジアム、サン・シーロでは以前は毎年5回全面張り替えをおこなっていました。グラスマスターへの切り替え後、その張り替え回数は0回になったと報告されています。ハイブリッド芝を導入すれば、ピッチの稼働率を1.5〜2倍に上げられるうえ、回復力に優れているためコンサートのような収益性の高いイベントも開催しやすくなります。
芝が生長しながら人工繊維と絡み合うため剥がれにくく、部分的にえぐれるディボットができにくくなります。踏まれた芝も人工繊維に支えられて回復しやすく、縦に差し込まれた繊維によって排水性も向上します。
芝草そのものの特性としては、耐踏圧性、すり切れ抵抗性、傷害からの回復力が高く、良い状態が長く続く点が挙げられます。とくに冬は低温下で芝草の生育が鈍り、いったん傷むと回復しにくいのが天然芝の弱点です。傷みにくいハイブリッド芝であれば、冬期の使用量を2〜3倍にできるとするメーカーもあります。
実物のハイブリッド芝を見る「HERO」
2017年に開催されたジャパンターフショーで、東洋グリーンが扱うハイブリッド芝「HERO(ヒーロー)」を実際に触ってみました。FIFAやワールドラグビーの国際基準に適合しているスポーツターフです。
構造としては、人工ファイバーの高さが65mm、そのうち20mmが芝面から出てくる設計になっています。基布に人工ファイバーを固定したカーペットのような下地に、天然芝を生やす仕組みです。断面を見ると、表層はほぼ天然芝で構成されていることがよくわかります。
カーペットタイプの下地は、部分的な補修が必要な場合にスポットで張り替えられる利点があります。全面張り替えに比べ、維持管理の手間とコストを抑えられます。
日本陸連も規定改定、大分銀行ドームで導入へ
ハイブリッド芝の広がりは、サッカーやラグビーだけの話ではありません。2018年2月28日の大分合同新聞によると、日本陸連は規定を改定し、日本選手権や国際大会を開催できる公認競技場でハイブリッド芝を許可する方針に踏み切りました。従来、第1種から第3種までの公認競技場で投擲競技に使うインフィールドは、天然芝に限定されていたためです。
大分県は2019年のラグビーワールドカップに向けて、大分銀行ドームにハイブリッド芝を導入する方針を示しています。大銀ドームは陸上の第1種公認競技場でもあります。
ラグビーの国際統括団体「ワールドラグビー」が耐久性に優れるハイブリッド芝を推奨し、イングランド大会でも大半の会場で使用された実績があります。ロンドンの陸上世界選手権でも使用され、Jリーグの規定改定によりノエビア神戸や日産スタジアムといった国内競技場でも導入が進んでいます。
2019年のラグビーワールドカップを控え、こうした整備の動きは今後も各地の競技場に広がっていくとみられますハイブリッド芝 日本陸連が容認 大銀ドーム導入。
まとめ
ノエビアスタジアム神戸でのハイブリッド芝採用は、天然芝一筋だったJリーグにとって大きな転換点です。天然芝の美しさや競技適性を維持しながら、傷みやすさという弱点を人工繊維で補う。この発想が、欧州の名門クラブから日本陸連まで幅広く広がってきました。
ハイブリッド芝は天然芝が95%以上を占め、人工繊維で根の張りを補強した芝です。維持コストの低減、ケガのしにくさ、稼働率の向上といった利点があり、欧州の強豪スタジアムやJリーグ、日本陸連の公認競技場にも採用が広がっています。
よくある質問
- ハイブリッド芝と人工芝はどう違いますか。
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ハイブリッド芝は天然芝が95%以上を占め、人工繊維を3〜5%程度織り込んで補強した芝です。全面が人工素材の人工芝とは異なり、見た目や質感は天然芝に近く、ボールの弾みや足触りといったプレー特性も天然芝に準じます。
- なぜJリーグはハイブリッド芝を解禁したのですか。
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使用頻度の高さや気候、日照条件などによって天然芝が傷み、競技に適さない状態のまま使い続けざるを得ないケースがあったためです。欧州でハイブリッド芝の採用が進みFIFAでも認可されたことを受け、2017年からJリーグのスタジアム基準にも加わりました。
- ハイブリッド芝を導入するとコストは下がるのですか。
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デッソ・グラスマスターのデータでは、10年間のコストで天然芝ピッチより70〜80%低く抑えられると報告されています。ACミランのサン・シーロでは、以前は年5回おこなっていた全面張り替えが、導入後は0回になった事例があります。
- 国内ではどのような場所で採用が進んでいますか。
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Jリーグの試合会場としてはノエビアスタジアム神戸が最初の事例です。日産スタジアムなど他の競技場でも導入が進んでいます。加えて日本陸連が規定を改定し、大分銀行ドームなど公認競技場でもハイブリッド芝の導入が検討されています。








